農場の少女がいかにして殺人鬼となったか。母との確執、父の介護、夫の出兵……抑圧された狂気がある夜爆発する。
『X』を観たので前日譚であるこちらを鑑賞。あのサイコ老婆の若かりし頃だ。これもミア・ゴスが演じている、流石の存在感。あの絶妙に心をザラつかせる不快な表情というか声色というかヒスっぷりというか。こういう癖強めの作品でばかり見るから癖強めのイメージがついちゃってる。 展開は『ジョーカー』だ。鬱屈した生活を送る若者が淡い夢を抱き続け、ようやくチャンスを掴んだと思ったら単純に実力が無くて夢破れ、感情のままに人を一人殺したらタガが外れたように次々殺していく。今回のパールは身内だけ惨殺なので何か社会に影響を及ぼすわけではなく一応後悔もしているみたいだけど。 パールは大女優の夢を追っていたが、田舎の僻地という閉鎖環境、厳格な母の抑圧、重度障害を持つ父の介護、愛する夫の出兵による孤独で静かに壊れかけていた。裕福な義実家の訪問にきまり悪くなりつつ、義妹の誘いで女優オーディションに参加することになりチャンスを掴む。 それに気がついた母が激怒し口論となるが、暖炉の火が母の服に燃え移りそのまま大火傷で動かなくなる。 パールは家を飛び出し、以前より良い仲だった町の小劇場の男の元へ行きワンナイト。朝、男に家まで送ってもらうが男は家の様子がおかしいことを察し恐れをなして帰ろうとする。それに拒絶されたとヒステリーを起こしたパールは男を殺してしまう。 着替えたパールはオーディションに向かうが、披露したパフォーマンスは稚拙で箸にも棒にもかからずその場で落選を言い渡される。絶望に号泣していると一緒に参加した義妹が気の毒に思い家まで送ってくれた。そこで積年の思いを独白すると、あまりの狂気に義妹が逃げ出したので彼女も殺害する。 最後に帰還した夫が異様な自宅の様子に絶句していると、パールが泣きながら現れ異常な弁明をして笑いかけ終了。 この夫と老後まで愛し合っていたのを知っているので、ラストシーンの後に夫は妻を見捨てず狂気を受け入れたんだろう。あるいは夫もおかしかったのかもしれないけど、元々家族仲が良くなく義実家からは半ば勘当されていたようだし、妻が身内を一掃しようが失うものが無かったのかな。真実の愛、メリーバッドエンド。 不穏な空気は漂いつつ、才能はあってて欲しいと思いながら見ていたのでオーディションで踊り出した途端虚しい気持ちになってしまった。ああ、ジョーカーってことなんだなこの子は……。影響受けてたりもするのかな? 若い女の人ともなるとより痛々しくてしんどい。親を殺して家を飛び出てやっと自由、やっと本当の自分を見てもらえると全力を出した結果の惨敗は。完全に勘違い田舎娘だ。順番が来るまでに鼻につくほど自信満々な時点で前振りは十分だったけども。挙句、裕福でブロンドの義妹が合格するのもむごい。 ここまででパールについてはしっかりガッツリ描かれていたと思ったけど、その後の独白シーンで更に地獄を抱えていたことが判明する。 自由と栄華を夢見て金持ちの青年と結婚まで出来たものの、蓋を開けて見ればその青年は奔放者で家族と不仲。それも勘当同然で、玉の輿どころか向こうがこちらに来て農家を継ぐという。夫と共に悪夢のような実家生活を迎えたと思えば、身勝手にも出兵したいと言い出し妻を置いて戦地へ。 しかし凄まじいのはこのシーン、咽び泣いて自身の不遇と鬱憤を延々と語り続けるわけだけど、マジで5分以上はワンカットで喋り続ける。途中からよくセリフ覚えられるな〜……と邪念が入っちゃってむしろ没入できない気もするけど。迫真だ。『ライトハウス』のロバート・パティンソンを思い出した。あっちは激怒パターンだけど。 とりあえず夫だけは逃げ出さず愛してくれる未来を知っていたのであんなオチでも元気でいられる。幸せになってほしい。