次々起こる不可解な無理心中事件の共通点。14日に生まれた女の子がいることと、"ロングレッグス"による暗号文が現場に置かれていること。
本国公開時にどえらい話題になっていたので気になっていたやつ。日本公開した途端「怖い」派と「怖くない」派が真っ二つで絶妙な期待値へ。 年度末で忙殺状態の中、ラストのレイトショーにどうにか間に合ったぞ。 自分はコレだいぶ好き〜おしゃれだった。恐怖の種類も好きなやつ。 『セブン』と『羊たちの沈黙』とジョーダン・ピールの要素入れた感じ。悪魔はしっかり存在するけど手は下さない、悪魔の手先気取りの信者が理不尽に呪術で殺す感じ。 怖くない派がいるのも分かるけど、個人的には好きな怖さ。ド派手で直接的なスプラッタや殺害シーンは無いが、ガチの事件を目撃してしまったような距離感が不気味でゾッとする、好き。 オープニングがオシャレで良かった。正方形の画角に雪景色のポツンと一軒家。怪しい車を窓から見つける少女。もう雰囲気が好き。 レトロで不気味な音響がワクワクする。初っ端から留守番の女の子の前に現れる不審者の、おばちゃんなのかおじさんなのか分からない気味悪さが良い。どう見ても様子がおかしいし。そいつがギリギリ顔見えない画角のまま甲高い声で意味わからんことをニヤニヤ呟いて、からの一瞬ドギャーンと顔映ってロックが流れるオープニング。ワハハ、おしゃれ。好き好き。 オープニングが終わると画角は現代のスクリーンに戻って、主人公のFBI捜査官とその先輩がペアで聞き込み捜査をし始める。妙に確信的な勘でホシの家に狙いをつけた主人公に従い、先輩がその家の玄関をノック。その脇でソワソワ屋内を観察していた主人公が振り返ると、先輩が玄関の中から頭を撃ち抜かれる。良いテンポ! 良い衝撃! この唐突さがガチの事件っぽい距離感ということで、好きなタイプの怖さである。主人公もプロだから咄嗟に悲鳴は上げず息を呑んで銃を構える感じ。良いよね。 全体通して主人公は一度も悲鳴を上げないタイプだったので良い味出してる。終盤もう何もかも最悪な状況になって車内で一回絶叫するけどその程度。ぶっちゃけ自分も急に悲鳴をぶちかませないタイプなのでこっちの方が生々しさがあって嬉しい。 しかしこの主人公、とても欧米人とは思えない(偏見)コミュ障というか、塞ぎ込みっぷりが凄い。上司を送っていった時に「家族に会って行ってくれ」と言われた時に「それは命令ですか?」とか、Z世代か(偏見)。そこまではまあいいとしても、上司の妻子とお目見えした時に向こうが「会えて嬉しいわ」とか話しかけてくれてるのに対して真顔で無言はヤバい。私でももうちょい頑張るぞ。ヒヤヒヤしたわ。 それはさておき、舞台が90年代でそもそもの全体の雰囲気が好きだった。スマホをはじめとしたハイテクが無く、タバコ臭くて薄暗いあの感じ、良いよなあ。 ジャンルは猟奇殺人鬼を追うサスペンスものがじわじわとオカルトに変わっていく。人間相手じゃないならコレ無理じゃない? と詰み始めた頃に、共犯者の正体がめちゃくちゃ身近にいることが判明する。『階下の男』って表現が比喩でも何でもないそのまんまの意味だと分かった時のゾーッとする感覚。 オチから言えば、悪魔へ捧げるために誕生日が14日の女の子がいる家庭に人形を届け、その人形の呪術によって家庭のお父さんが一家を惨殺し自殺する。例のロングレッグスを名乗る男が人形師で、共犯者は人々を安心させるシスターの格好で「教会からの贈り物です」と人形を贈る役割。 その共犯者の正体というのが主人公の母。主人公も14日生まれで標的にされていたが、9歳の誕生日にロングレッグスが訪れた際、母親が娘の命だけは助けてもらうよう懇願した。その結果娘の命を見逃す代わりに悪魔に協力するよう取引を持ちかけられたのだ。 娘のロングレッグスに関する記憶は消し去られた。母親はシスターに扮して人形を家庭の中に入れるだけ。人形を渡した直後に聞こえる惨劇の断末魔に強い罪悪感を覚えていたが、繰り返すうちに精神を病んでいく。それでも娘からロングレッグスに関して質問をされても知らぬ存ぜぬと固く口を閉ざしていた。全ての真実を娘が思い出してもなお、「生きることを許されるためにはこうするしかない」と猟奇事件に加担することをやめられなかった。 基本的に悪魔系のオカルト映画はファンタジーすぎて好きじゃないけど、これはホント見事に自分がゾッとするラインに融合されていて加減が良い。ジョーダン・ピールにビビらされる「不審者を見ちゃった」系の恐怖もある。 主人公が記憶を取り戻して先輩と共に母に話を聞きにいったとき。一人車を降りて母を探していたら外で銃声が鳴り響く。慌てて窓から外をみると、シスターの格好でショットガンを持つ母親と血まみれの運転席。何が恐ろしいって、母親はずんずん歩いて助手席側に回ったかと思うと間髪入れずもう一発。もうぐちゃぐちゃなのにまさか逆側からもう一発入れると思わなくて普通に怖かった。窓からの視点だからこれもやっぱり目撃しちゃった感。 ラストなんて上司の娘のお誕生日パーティーすなわち14日に持ち込まれた人形でみんなおかしくなっちゃって、上司が「キッチンに行こう」と妻の手を引いて「戻ってくるのは俺だけだ」ってごく普通に笑顔の妻を連れて行き、ザクザク刺殺する音が聞こえてくるあの雰囲気。間に合ったのにリビングで動けなくなっちゃう主人公と人形に頬擦りする娘、血まみれのシスター姿の母。最〜悪だね。この不気味さたまらない。そんで子供も狙い出す上司を撃ち殺す主人公。怒り出す母も撃ち殺す。自分の誕生日に親殺し。最〜〜悪。帰ったら主人公は職場に何と伝えるんだ? 弾切れで人形は撃てず。娘は生き残ったのがせめてもの救いか? でも別件で生き残った娘は病院で飛び降りたしな。共犯で命を繋げていた主人公の死も近いかもしれない。でも映画はここで終わる。洒落たロックで下から上に流れるエンドロール。これもどっかで見た気がしたけどパンフレット読んだら『セブン』と同じらしい。やっぱりリスペクトがあったのか。 そう、パンフレットかなり凝ってた。今まで自分が買った中では一番凝っていた。証拠品再現でジップに包まれていたし、パンフそのものもロングレッグスが主人公に送った手紙をかなり再現していた。開いていきなりあの9歳のお誕生日カードだしビビる。あとは一緒に入ってた現場写真ね。マジで不気味だからあれは裏返しにして入れ直した。ご勘弁。 パンフで読んで知ったのは監督が『サイコ』の主演アンソニー・パーキンスの子だということ。へええ〜。もうそんな大きくなって。サイコ三作目とかアンソニー本人が監督してたりしてたもんね。加えて母は9.11の飛行機に乗っていて亡くなったらしい。知らなかった。強烈な人生だ。 全体的におしゃれでレトロでサスペンスとオカルトのバランスも好きな具合。 おそらく一番のびっくりポイントでちょうどジュースがホルダーにうまいこと入らず、ちょっと視点外してたから本当にもったいなかった。