ミッドサマー

Midsommar

妹と両親が無理心中して精神どん底なまま、冷え始めている恋人とその仲間たちと共に伝統の夏至祭りに参加。そこで悲惨な儀式の犠牲になる。

ミッドサマー

Midsommar

タイトルとポスターだけ見て華やかなドラマかと思いスルーしていたやつ。友人と初見は一緒に観ようと話して数年の月日が経ち、普通に観ろとのことだったので鑑賞。たまたまMOVIXで再上映していたので映画館で観た。

相当な評価なのでハードル上げまくりで観たけど、それほどダメージは受けなかった。みんな世界観が好きな感じか。想定していたよりもスカッとした結末。主人公にがっぷり感情移入していたのが大きいか。

オープニングの勢いが好き。主人公の双極性障害の妹が両親と無理心中。
色々な事故事例を見てくるとガンガンに想像が働くもんだ。消防士が出た時点で放火で心中か? と想像し、火が上がっていないので練炭自殺か? と考え、次に車のマフラーからホースが家に引かれているのが写ってOh……と察す。一酸化炭素中毒は無色無臭かつ一吸いで速攻らしいので寝ている間なんか不可抗力だ。苦しんでいないならせめて良い。
このオープニングで主人公にかなり強烈な背景が出来て、既に自分は同情モードだ。最悪な形で一度に家族を失った上に、恋人との関係性も冷え始めている。この上なく宗教にハマりやすい悲惨な精神状態だ。

友人たちも友人たちで、旅先に面倒な彼女を連れてきた主人公の恋人に若干テンションが下がっているのもひしひしと感じられてキツい。戦犯のジミーはまだ寄り添いの姿勢だけど、結局ノルマのうちの一人なので下心がゼロというわけではない。

故郷に着くなりヘロイン系をキメさせるあたり既にろくなもんじゃない。主人公に激烈に効いたのは元々の不安定さによるものか、抗不安薬との合併なのか。村に入って以降睡眠薬だけでそっちのお薬は全然飲まなかったな。写ってないだけ?

主人公のメンタルは全体の映像に大いに関わっていた。
老婆が崖から落下した瞬間は驚いた様子だけど、死体になった瞬間からはノーリアクション。これが噂の防衛機制か。あのよそ者たちの中で一番人の死がトラウマになっているのは主人公だろうし。PTSDの極地で人は発狂するのではなく無になる、納得は出来る。
そのあとは安全で穏やかな草原で一人で号泣。家族の命は無理やり奪われたのに、老人二人の自殺の神格化は見てられないだろう。泣きの演技がいちいちリアルで生々しい。ジミーは外に出て暮らしていたくせに、拒否されることへの想像力は無かったんだろうか?

むごたらしい遺体は映るけど、直接的な殺害シーンは一つも映らない。祭りの準備や開催の様子も記憶する限りアメリカ勢が目撃した範囲のみで、徹底的によそ者視点。
何をしているのか、何をされるのか分からない緊張感があるうちは最高にドキドキする。明らかになると妙に滑稽で笑ってしまった。性交の許可がおりた、すなわち生理が始まった少女と主人公の恋人の儀式。キマっているとはいえ周囲であんなんされて維持出来るのは凄いな。ホラーとコメディは紙一重と言うけども。

主人公がそれを目撃して号泣しているところに皆で一緒に泣くのは最初腹立ったけど後半はやっぱり笑ってしまう。皆んなで一緒に、って言うけど負の感情ばかり共有していないか?

最後の儀式で、痛み忘れるやつを舐めたはずの村人が焼身の苦しみで絶叫するのも何だか笑った。やっぱり信仰だけじゃ無理がある。それを見てゾッとしたら、もう一人が舐めた恐れを忘れるやつも効いてない気分になるんだし趣味が悪い。
燃える9人を見て大号泣する主人公には泣き笑いした。これは何でか分からないけど。

とりあえずスカッとした。一人ぼっちの主人公には現実の方が地獄だったし。村には母性も父性も新しい命も完全な家族がある。そこで自分を苦しめていた残りわずかな現実の身内を一斉処分できた。主人公に感情移入していたから、終わらせられた嬉しさで結末は暗くならなかった。自由だよ、それが一番だよ。
主人公がここではなく仏陀に出会えていたらまた違ったのになあ。寺に入れば少なくとも身内を処分しなくて済んだのに。浄土真宗を勧める。

浄土真宗ではあるけど、この手の映画は自分の想像できる残虐性との対決になってしまって勿体無い。何かが起こりそうなところで最悪な展開を次々想像して向こうのほうがやさしいと、勿体無い。前評判を聞きすぎると起こる弊害。たまにそれを絶してくる映画があったりして眠れなくなるけど。

一つ全然分からなかったのは、マークの処分。ジョシュを見下ろしていた時は一体どんな状態だったの。ゾンビじゃないですよね。最終的にだるまになってましたけど、どこかに補充されたのか聖典を踏襲したのか。元ネタ分かればもっと楽しめるんだろうな。

そして地味に気になるのは祭りのサイクル。本場のルールや神話は一切知らないけど、毎年やってるわけじゃなくて90年に一度の祭りなのかな? 毎年だったら崖から飛び降りる人数えらいことになるしね。それともよそ者は毎年必要だからやっぱり毎年やってんのかな? どうなんだろう。

ついでに祭りあるある。思ってたより長い立ち時間とか、儀式の長さに「ちょっと昼寝してくるわ」みたいに離席する感じとか地元の祭りを思い出して懐かしかった。自分のところも毎年夏になると地元に帰って祭りに参加するけど、ガッツリ運営側だった子供の頃と地元を出てから参加する今とでは全然違う。
小さい頃行事は絶対参加が普通だし、離席は無いし、やたらに長くて暑くて暇な時間がある。でも文句は言っても離脱しようとは考えなかったから、子供にとっての地域は世界そのものなんだよな。
大人側になると祭りは絶対じゃないから楽しくなったもんだ。ふらっと参加してお酒もらって大人たちと駄弁って法被借りて笛吹いて旧友と会う。今年も楽しみだ。

学生時代だったら白夜が続くのはめ〜っちゃ楽しそうだけど、社会人状態だったりメンタルボロボロの時は本当に嫌だな。
2024-06-24