人類が進化して痛覚が失われた未来。腫瘍をアートとして稼ぐ夫婦に、ある男が「子供の死体を解剖しないか」と提案する。
イカす監督クローネンバーグがまさかの新作出してきたのでレンタルして観る。ポスターは日本版の方がイケてるな。海外版で一つ素敵なのがあったけど、あんまりショッキングだったのでどこかに配慮して一応避ける。 いやあ気持ち悪かった。世界観は星新一チックなダークSF、全体のトーンは暗くてしっとり。そんで奇妙なヘキを存分に見せつけられる。でもまあ日本人なら普通に受け入れられる懐の広さ(?)はあるんじゃないか。何とは言わないけど日本人、特殊なヘキの耐性というか理解度が高い気がする。己も多分に漏れず。 いつも通り前情報なしで見始めたら、前提の設定を理解するまでめちゃめちゃ時間かかってちょっと後悔した。 主人公が何者なのか、パートナーは何の仕事なのか、二人は何の話をしているのか。""登録所""とやらに出向いたけどそこにいる二人との会話もついて行けず。どうやら人類が進化して痛覚を失った世界線らしいことは分かった。 開始から一時間弱で出てきた刑事が「ただの腫瘍の切除がパフォーマンスか」て言ってくれたおかげで一気に理解できた。 主人公の病弱おじさんが新臓器を生み出し、パートナーがそれに絵を描くパフォーマンスで二人は生計を立てている。その説明でだいぶ意味不明だったけど、どうやら「痛覚を失った人類の世界で、ポンポン腫瘍ができるおじさんがそれを無麻酔で元外科医の妻にタトュー彫らせ&切除させるパフォーマンス(アート)」ということらしい。麻酔無しに関してはこの世界ではデフォルトだけども。 そんな夫婦にある男が子供の死体を解剖するパフォーマンスを提案してくる。しかもその子供は男の息子だという。乗り気でなかった主人公だが、子供のある特異点を知り気が変わる。子供は異食症だったのだ。それも唾液であらゆるものを溶かして食べてしまう。 特殊な体の内側に興味を持った主人公だが、父親の企みを暴くため事前に調査を重ねる。そしてその目的が異食に進化した人類による支配であると気づく。 何やら色々な方向に話が向かうので、先に述べたほどシンプルな構成ではないけども。 終盤はこの新人類計画の話だったのでそれをメインとして認識する。最終的には警察によって少年の臓器はあらかじめ人工臓器にすげ替えられ、パフォーマンスにて「少年は新人類ではなく人工臓器によって改造させられていただけ」として父親の野望を打ち砕く。 で、その時点でスッキリ終われば分かりやすかったけど。 最後に主人公が異食人類しか食べられないチョコを食べて意味深な表情になって終わる。普通なら吐血して絶命してしまうところだけど、主人公も新人類に順応したってことかしら。 食事を介助する椅子が動きを止めたのも、もう介助する必要が無い判定をしたからか。その椅子に座ったまま殺されたおじさんがいたけど、死体になった後も椅子が動き続けてたしね。死んだってわけではないんだ。多分。 いきなりエンドロール入っちゃって久々にハァ?!て言っちゃったよ。 見せつけられるヘキについて、痛みがない世界だから傷つけあう行為が耽美というか、快楽というか。主人公夫妻は内臓こねくり回されたり手術台で手術し合ったりして悦に入っている。他にも臓器アートを見せつけるために腹にジッパーつけてくるとか、ツノを生やしてみたりとか。若者も路上でイチャイチャ傷つけあう。この世界で快楽を失ったのはサディストか。グロいというか見てて「いてて……」ってなった。 ショッキングだったのは目を塞いで全身に耳をつけたパフォーマーのビジュアル。こんなインパクトのクリーチャー久しく見ていなかったので新鮮にビビった。それがパフォーマンスなんだから凄いよね。 痛みが無い設定で快楽だの芸術だの娯楽の話しかしていなかったけど、それよりも暴力や拷問が意味を為さない点でもうちょい深く見たかった気もする。 DVはどんな形になるのか、拷問はどう対応されているのか、通り魔や強盗はいなくなるのか。気になるなあ。