ナイトメア・アリー

Nightmare Alley

逃走中に見世物小屋へ辿り着いた男、禁断の読心術と妻を得てビジネスを展開するが強欲と欺瞞が最悪な破滅を導く。

ナイトメア・アリー

Nightmare Alley

監督ギレルモ・デル・トロで舞台が見世物小屋なら観てみるか。ところが最寄りの映画館がお休みしてしまったので4駅分の交通費が発生してしまった。リピート割も効かず。隣席の人は途中退場、その隣の人は終始スマホいじりっぱなし、前列の人は15分間隔で入退場。久々に荒れた映画鑑賞だった。

シアターはカオスだったけど映画は普通に良かった。もう一回観るほどではないけど一回観るのには魅力的なストーリーだった。キレキレのバッドエンド。ちょっと読めてしまったけどオチの付け方がクール、というかブラッドリー・クーパーの演技が凄まじすぎてしんどかった。一人の男が道を踏み外して破滅していく系話。

開幕殺人(というより死体遺棄)からの火葬処理で景気良くスタート、そのままバスに乗り込み終点まで眠った果てに行われていたのは巡回カーニバル。主人公について一切の説明・背景が無いまま見世物小屋の雇われ生活が始まる。
時代はヒトラーの独裁政治下――つまりいつ頃だ――貧困と犯罪蔓延る混乱した世の中で悪行は堂々とビジネス化している。カーニバルのメインは見世物だが、そのうちの獣人はオーナーがアヘン中毒者を臨時バイトと偽って雇い、禁断症状を起こさせて"獣人"に仕立て上げているなど現状は悲惨だった。しかし衣食住にありつくためと労働していた主人公は一人の男に出会い読心術を会得する。そして"電気女"と結ばれた主人公は師匠の死をきっかけにカーニバルを飛び出し都会で人の心を読める霊媒師として成功を収めた。
が、師匠に忠告されていた"幽霊ショー"の味をしめた主人公は権力者や資産家相手への詐欺にのめり込み、妻をも利用し始める。挙句、詐欺は誤魔化し通せない域にまで至り、とうとう最悪な結果が招かれる。全てを失って行き着いた先は、「臨時の仕事があるんだけどどうか。次の獣人が見つかるまで……」の言葉。

転落具合が良い。「ああ、これはもうどうしようもないな」と救いの無い境地にどんどんハマっていく。見世物小屋がテーマでデル・トロだからてっきり異形祭りダークファンタジーかと思ったらシンプルにショービジネスの闇を描いた社会派っぽい話だった。確かに途中退屈になりかけたけど、最後の客の展開からエンドまで勢いがあって良かった。

ペテンのくだりもタネが絡んで面白かった。シャーロック・ホームズと同じ、対象の衣服や身体的特徴、言動を観察して推測する。当たればペテンじゃないと思うけど、霊能力と偽って盲信させ金を稼ぐからいけない。結局協力してくれた心理学博士にいっぱい食わされ一文も得られず詐欺師どころか殺人犯になり挙句獣人に堕ちるとは笑えない。が、元より殺人スタートだから別に主人公への愛着も共感もない。もうちょい背景見せてくれてたら変わったのか……でも破滅系でグッとくるもの自体が稀有だからな……スカーフ◯イスくらいか。大体破滅する奴はダメな奴だから仕方がない。

恐らく見せ所であろう観客をギョッとさせる展開、一通り予想がつくのでギョッとし損じ、見せ方はちょっと甘かったか……。メタノール取りちがいとか、夫婦心中とか、最後の殺害とか獣人化とか……ううん。
2022-03-26