イン・ザ・ハイツ

In the Heights

明るいが貧しい移民の町ワシントン・ハイツ。真夏の大停電をきっかけに、人々に変化が訪れる。

イン・ザ・ハイツ

In the Heights

ファーストデイで安くなるのでとりあえず観に行く。元ネタがあるのかも分からない事前知識ゼロ鑑賞。ミュージカルと聞いてたけど本当にずっと歌いっぱなしなので楽しい。後半だんだんマジでラテン系の人ってこんな感じなんだと思い込んでくる。どうなんだろう。しかしただのお気楽映画というわけでもなく、移民問題や人種差別にガッツリ切り込んだ、内容のある話だった。

全体の構成がラップと歌唱で6:4くらいで面白かった。主人公は基本ラップで特別めちゃくちゃ上手いって感じでも無いけど何だか魅力がある。恋愛に関して歯痒いほど鈍感。キャラとしてはベニーが非常に良かった、まずラップがえげつなく上手いし歌っても引くほど上手い。リズム感がえぐい。いきなりビートが変わる初登場シーンで全部持っていかれた。お調子者っぽい雰囲気なのに96万ドル当たったらどうするかって話で「ゆっくり歩いて行ける」と歌い出したのもやばかった。苦労したね。女性陣は子供から若者からおばあちゃんまで全員良かった。当たり前だけど歌、上手い……。

ハイツの人々はハイツという町、ローカルなコミュニティを愛し謳歌しているようだが、その実一歩外へ出れば移民というだけで社会的制限を強いられる境遇にある。逆に言えば、ハイツが唯一のよりどころなのだ。貧しくても楽しい、と歌いつつ夢を抱いた人々はそれが実現し得ないものと諦観しているのがやるせない。全編通して明るいテイストなんだけど彼らの訴える内容はそれ以上に重いものでもある。

主人公は故国であるドミニカへ父の店を守りに帰りたいがお金が無い、その従兄弟のソニーは成績優秀だが不法移民で大学に進学出来ない、ハイツ一番の秀才は進学したが差別による孤独に耐えられず退学を申し出る、開業を目指すネイリストは年収の低さで都会に物件を借りられない……本当に、明るく歌ってるけどしんどいことばかり。小さい島国で何不自由なく大学まで行かせてもらった自分がいかに差別に直面せず生きてきたのか痛感した。

そしてこの映画……割とシビア!! 鑑賞後穏やかな気持ちにはなるものの、よくよく考えると、誰一人夢を叶えていないのだ!! もちろん新たな夢を見出し歩み出した者もいるけども。結局ずっと抱いていた夢を叶えたものはいない。そこが良いんだ。夢に関して、主人公の語った深い言葉がある。それは、ちょっとうろ覚えなんだけど。そうだよなあ……と沁みた。

この映画のストーリーとしてはルーツから引き離された移民の人々が夢を追ってハイツという町を離れようとするが、やはりハイツこそが故郷である、と再確認する話。納得は出来るんだけど、自分的には「と、飛び出そうよ!!」と若干ムズムズしてしまった。どう見てもワシントンよりドミニカの砂浜の方が魅力的なんですもの。でもまあしかし、実家か嫁か(超解釈)という選択肢で嫁を選んだようなものなので、ある意味人を大切に出来ているとは思う。だけど、出発直前に好きな人から「ここに残って!」と泣きつかれて留まる……というのがどうにも。いや実際はもっと紆余曲折あるけども。あのおばあちゃんにサクッと謝って済ませてるのも何となく拍子抜けである。まあベニーカップルはそれぞれの意思を尊重して離れ離れになったから、「全員ハイツに残ります!」がメインじゃないことは確かだ。あくまで主人公は、ということだから。で、自分は「絶対ドミニカに帰ろう! がんばれ!」と思って観ていたから。基本的に故郷大事にする派だっていうのと、大破した父の店・再建に十分すぎる資金・故郷に想いを馳せたまま亡くなった恩人、の三拍子が揃ったらもう帰らない選択肢は無かったから。驚いたなあ! そういうリアクションへの期待も込めてトリックのある演出にしたんだろうけど。ウスナビよ、それでもいつかは家族と一緒に帰ると信じてるからね……!

この辺の認識の差も置かれた環境の違いによるものなのかななどと考える。我々は実家か自宅かの二択で生きてるようなもんだから……。
2021-08-01